認識から行動へ。学生から社会人まで参加する学びの場。

市民のための環境公開講座2019

2019年度市民のための環境公開講座パート2参加者募集中です。

PART1 人も生き物も豊かになる水の惑星

8 7 レポート

「サンゴに優しい日焼け止め」を創った理由 サステイナブルなツーリズムを考える

呉屋 由希乃 氏

呉屋 由希乃 社会起業家・GLE LLC.代表

受講者の未来にお役に立てるように、質問の時間を多く取りたいと思っています。サンゴの専門的な話は、ネットや学者に聞けますが、社会起業に関する話、活動に伴う話など、私にしか答えられない話があると思うので、なんでも質問してください。

講座概要

「サンゴ死んじゃうよ」と言われたところから、たくさんの「なぜ?」の先に“サンゴに優しい日焼け止め”を創り、自然に配慮あるツーリズムを沖縄から呼びかけています。クラウドファンディングから始まり、今に至るまで、想像もしなかった高い壁が多く立ちはだかりました。なぜこの事業が必要なのか、なぜ壁が多く立ちはだかるのか、今までの活動で確信したこと、現状、地方と都市の意識格差など、社会起業のリアルを共有したいと思います。


講座ダイジェスト

サンゴは生きている

皆さんはサンゴが、海の森と呼ばれていることを知っていますか?なぜそう言われているかというと、サンゴは海水中の二酸化炭素を吸収し酸素を出す、つまり光合成を行う生き物だからです。二酸化炭素の削減能力はアマゾンの森よりも高いと言われ、海洋生物の約25%の住処になっています。しかし、そんな世界のサンゴが過去30年間で半分以上も死滅しています。日本最大のサンゴ礁群がある石垣島の石西礁湖でも、約96%のサンゴが白化しており問題は深刻です。

ではなぜ、サンゴが白化し続けているのでしょう。主な原因は、地球温暖化、排水の問題、オーバーツーリズムだと言われています。サンゴの中には褐虫藻という植物プランクトンが住んでおり、サンゴはそれを食べ合体することで褐虫藻から栄養をもらいます。しかし、褐虫藻はとてもストレスに弱く、気温の上昇や汚水の問題による変化を感じるとサンゴから出て行ってしまいます。サンゴは生きていくための栄養の約8割を褐虫藻から取り入れているため、褐虫藻が住めなくなると十分な栄養を補給出来ず、死んでしまうのです。

サンゴは植物ではなく動物です。1年間に15cmほど成長し、卵も産みます。もし、アマゾンの森が半分も燃えていたら大変なニュースになりますが、海のサンゴが減少し続けていることはあまり話題になりません。白化している姿は見た目も綺麗なので問題として取り上げにくく、そのことが関心を薄めている原因のひとつだと私は思います。

“サンゴに優しい日焼け止め”の活動

沖縄生まれ沖縄育ちの私も、サンゴ白化の問題を昔から知っていたわけではありません。“サンゴに優しい日焼け止め”を創るようになったきっかけは、沖縄の座間味島にシュノーケルへ出かけた際にダイバーさんから言われた「サンゴ死んじゃうよー」の一言でした。海に入っていてもその言葉がずっと引っかかっていて、家に帰って調べてみたんです。そこで目にしたのは、日焼け止めの成分がサンゴに有害であるという情報の数々でした。それらの情報によると、ほとんどの日焼け止めにサンゴに有害だとされる成分が含まれており、オリンピックプール6個分に対してその成分を1滴でも垂らすと、サンゴのDNAに影響を及ぼすというものでした。

その事実を知った私は、まずサンゴに有害な成分が入っていない日焼け止めを販売している店舗を探しました。しかし、沖縄中を探しても見つけられたのは東急ハンズひとつだけ。日本では日焼け止めがサンゴに有害であるという事実が、全く浸透していないことがわかりました。一方でその当時でもハワイでは日焼け止めに関する条例をつくる動きがあり、お店でもサンゴに影響のない日焼け止めが数多く販売されていたため、私はその温度差にとてもショックを受けました。ならば自分でやるしかないと “サンゴに優しい日焼け止め”という名前で、観光客の方でも気軽に手に取れる全身2回分ほどの価格を抑えられる小パックを発売することにしました。それからクラウドファンディングで資金を募り、ラジオやテレビなど様々なメディアで協力を呼びかけました。その結果350万円ほどの資金が集まり、これはやっぱり社会全体で考えるべき問題なんだと思いましたが、蓋を開けてみると協力してくれたのは顔見知りの方ばかり。日焼け止めを創った後も、世の中の関心は全く変化していなかったのです。

そんな中、沖縄中を営業で回り少しずつ認知され企業の方からも声を掛けられるようになった頃、国連開発計画の関係者の方からSDGsに取り組む企業として、マレーシアで行われるワールドアーバンフォーラムに参加しないかと声を掛けていただきました。1週間展示をさせていただく中で、サンゴ礁で有名なビーチがあるジョホール州の政府の方から「これは、観光に配慮して遊んでくださいと言えるツールだからすごく良い」と言われました。そこに集まっている人達の悩みはみんな同じで、リゾート開発の速度に追いついていかない環境意識をどう育てるかということでした。私はこれをきっかけに、サンゴを守るためだけでなく自然に配慮するきっかけをつくるツールとして“サンゴに優しい日焼け止め”の活動を考えるようになりました。

活動する理由は、まず自分

沖縄には独学でサンゴ養殖を成功させ、岡村隆史さん主演で映画化もされた金城浩二さんという方がいます。その方にサンゴへの関心が高まらないことや環境に対する意識が定着しないことを相談した際、こんなことを言われました。「たまにやりたいのか、それとも毎日やりたいのか考えないといけないよ。もし毎日やりたいのなら、自分がやりたいからやるって決めないと続けられない。この10年間自分の所には色んな人が来たけれど、誰も残ってない。たまに活動する人にも役割はある、けれど毎日の人はすごく大変だよ。それを誰のせいにもしちゃいけないよ」。私はこの一言があったから、今まで活動を続けてこれたのだと思っています。

環境の悪化を感じながらも、自分からは行動に移せないという状況は色んな所で目にします。みんな駄目だとわかっているけれど、言えない、動けない。今は、環境の悪化について多くの人が知っているけれど無関心、思考回路が止まっている状況です。環境のことを考えましょう、自然に配慮して遊びましょうという機会も少なく、この日焼け止めもまだまだ定着はしていません。ただ、皆さんには、ほんの少しのことからでも自分の意思で出来ることがあることを知って欲しいと思います。私は環境に優しい=自分に優しいだと考えています。この先、少しでも環境に優しい商品を選ぶことが当たり前になって行けば嬉しいので、皆さんもこれを機会に小さな行動に繋げて頂ければ幸いです。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)/写真:廣瀬真也(spread)